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(コラム)第90回アカデミー賞を振り返る

第90回アカデミー賞の発表が行われました。

 

このブログでは作品賞と監督賞、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞助演女優賞の6部門を予想しました。

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予想の結果は6部門中5部門が当たりましたが、最も注目されるであろう作品賞は外してしまいました。

 

予想を当てられなかった原因はアンチトランプのムードをあまりにも考慮しすぎたことにあるかもしれませんが、最多13部門ノミネートされていた『シェイプ・オブ・ウォーター』はもちろん作品賞も有力視されていたので真っ当な結果でした。

そして、『シェイプ・オブ・ウォーター』はとても美しい作品であり、ギレルモ・デル・トロ監督のこだわりを貫いた作品なので、そのような映画がアカデミー賞の作品賞と監督賞を受賞したのは非常に素晴らしいことだと思います。

日本でもつい先日公開されたところなので、この作品賞と監督賞の受賞が日本でも追い風になり、劇場規模や動員数の拡大に繋がって欲しいです。

 

他にもアカデミー賞の中で印象に残ったのは、今回のハイライトの1つであるフランシス・マクドーマンドのスピーチで、今回のアカデミー賞の女性の活躍というムードを端的に現していただけでなく、まだこれからなのだという強い意志を感じました。

 

そして『ゲット・アウト』の人気も非常に印象に残りました。

脚本賞を獲得するだけでなく、『ブラックパンサー』ブームの相乗効果もあり主演のダニエル・カルーヤへの歓声が非常に大きかったことは、もしかすると来年のアカデミー賞の『ブラックパンサー』のノミネートもありえるなと感じました。

そういう意味でも史上初の怪獣映画によるオスカー獲得作である『シェイプ・オブ・ウォーター』は、今後のアカデミー賞のノミネートの幅を大幅に広げるような楔を打った作品なのではないでしょうか。

 

技術部門では『ダンケルク』が編集賞、録音賞、録音編集賞の3冠となり、技術部門でのクリストファー・ノーランの強さを改めて感じさせられました。

また、『ブレードランナー2049』で撮影監督を務めたロジャー・ディーキンスが14度目のノミニーで遂に撮影賞を獲得したのは、これまでの功労を考えると遂にという感慨深さがありました。

 

さて、作品賞の予想で迷った『シェイプ・オブ・ウォーター』と『スリー・ビルボード』は両方フォックス・サーチライト・ピクチャーズによる作品です。

この制作・配給を行う会社は20世紀フォックスの子会社なのですが、親会社と比べるとインディペンデント色が強いながらも優れた作品が多いというのが特徴です。

アカデミー賞関連で言うと、作品賞を獲得してきた『スラムドッグ$ミリオネア』や『それでも夜は明ける』、『バードマン あるいは (無知がもたらす予期せぬ奇跡)』などもそうですし、『リトル・ミス・サンシャイン』や『ファミリー・ツリー』、『グランド・ブダペスト・ホテル』など様々な部門でオスカーを獲得してきました。

 

ちなみに、フォックス・サーチライト・マガジンという映画のパンフレットのシリーズがあるのですが、他の映画パンフレットと比べても読み物として非常に読み応えがあり、シリーズならではの統一されたデザインも相まって、コレクションとして揃えたくなるだけでなく、パンフレットがフォックス・サーチライト・マガジンというだけでその映画は良作だという印象すら覚えてしまいます。

 

しかし、昨年のウォルト・ディズニー社の20世紀フォックスの買収によって、フォックス・サーチライト・ピクチャーズのような派手では無いものの優れた作品の制作が少なくなるのではないかという懸念が映画ファンの中にはあります。

スター・ウォーズ』シリーズやマーベル・シネマティック・ユニバースのような大資本をプラスに生かし、クオリティと規模を拡大させられるような作品があるのは『ブラックパンサー』を書いたこのブログにもある通りです。

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しかしながら、インディペンデント色の強い作品が大資本と相性がいいのかと問われると、必ずしもそうとは言い切れ無いのが現状ではないでしょうか。

ただでさえ、ハーヴェイ・ワインスタイン問題が業界を揺るがし、映画業界自体が激変しようとしている昨今、もちろんクリーンになることは健全なことだと思いますし、今まで虐げられてきた人が活躍できる場が開かれるのは素晴らしいことなのですが、ミラマックスのような今まで素晴らしい功績を残してきた配給会社の力まで弱くなるというのは、映画ファンにとって寂しい部分もなくはありません。

 

そういった意味でも、フォックス・サーチライト・ピクチャーズの映画が盛り上がり、一方ではワインスタイン問題が吹き荒れた今回は過渡期にあるのだと強く感じたアカデミー賞でした。